海よりも深くて波よりも透明
「夏葉、さっきから全然食べてないけど美味しくないの?」



穂風が俺に聞く。



「んなことねえけど…」

「夏葉って食べ物何が好きなの?」

「基本何でも食うけど…強いて言うなら豚の生姜焼き」

「ふ~ん。今度作ってみよ」



ああ…まじ、何か…好きだ。



俺だけ口数が少ないまま飯を食い終え、また海の上で数時間。



無意識にちらちらと穂風の方を見てる自分に気がついてはいる。



そしてめちゃくちゃ目が合う。



くっそ…。



「じゃあね~」

「今日はありがとうございました」



一日そこで過ごして、夕方前にようやく解散。



疲れた…。



つーか、穂風に()取られまくってたけど、冷静に考えて、川村そよ子と飯食って一緒に波乗ったってやべえよな…。



もっと満喫したかった…。



心が穂風に浸食されまくってる。



これは、他の女と気を紛らわすしかもうなくね …?



湘南にそのまま帰り、俺は疲れた身体を休めるようにバーのナナへ。



ナナにはあれからも割と来てる。



常連さんやオーナーのゲンさんとはすっかり顔見知りだ。



「ゲンさ~ん…」

「お、夏葉」

「ビールください…」

「珍しく疲れてんね。車は?」

「代行頼みます」



ビールうま…。



カウンターでビールを飲んでたら隣に常連のヒロさんが来た。



ヒロさんは30代後半のオラオラ系イケメンだ。



「夏葉じゃん」

「ヒロさんってモテます?」

「おい、急になんだよ」

「誰か女紹介して…」



俺がそう言ったらヒロさんがカハハと笑った。
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