海よりも深くて波よりも透明
「つーわけで、明日のお前は都内在住の会社員だ。頑張れよ」

「…」

「まあ向こうも多分一夜限りとかセフレとかそういうの探してるっぽいからあんま気張らなくて大丈夫だろ」



はあ…。



まあ、いいか…。



これで穂風を忘れられるかもしれねえし。



というわけで次の日の夜、待ち合せ場所へ…。



待ってると、写真と同じ顔の女性が来た。



俺にすぐ気がついて、軽く手を振ってくる。



写真より綺麗だし、めちゃくちゃタイプ。



これなら忘れられるかも。



これこれ、俺の好みはこういう女だ。



「ごめんね、待った?」

「大丈夫ですよ」

「写真よりかっこいいね~」

「そっちこそ」



俺が言うと、言われ慣れてるように笑った。



穂風だったらこういうとき、嬉しそうに笑うんだろうな…。



って、穂風かよ…。



会ったそばから穂風のことを考える自分にがっかり。



振り払うように歩き出した。



着いたのは綺麗めな居酒屋。



酒を飲みながら、適当に会話。



「夏葉くんは、じゃあ彼女とかいないんだ?」

「まあ。そっちは?」

「あたしも~。アプリとかできるのも彼氏いない内かなーって」



距離近いし。



男女の出会いってこんなもん。



その日のうちに簡単にそういう関係になったりする。



「移動するー?」

「二軒目行きますかー」



二軒目のバー、三軒目はカラオケ。



普通に相性はいいと思う。



居心地も悪くない。



でも…。
< 56 / 328 >

この作品をシェア

pagetop