海よりも深くて波よりも透明
「終電もうすぐなくなっちゃうね」

「あー…」

「うち一人暮らしだけど来る?」



普通なら行くよな…。



ていうかここまでこういう感じで来て、下ネタとかも普通にして、向こうもそのつもりのはず。



俺もそのつもりだったし。



行くか…。



なのに…。



「あーっと、すみません、実は明日の朝早いんすよ」



咄嗟に口から出てきた言葉。



何言ってんの俺。



俺自身も引いてんだけど…。



向こうもちょっと面食らった顔。



引きつった笑顔で「なら仕方ないね」と…。



まじですんません…。



「今日はありがとね-」



そう言って、タクシーで帰って行くのを見送る俺。



はあ…まじ、何やってんだよ…。



忘れられるチャンスだったのに。



頭から穂風が離れない。



実はずっと、あの人と喋るたびに頭に穂風がちらついてた。



苦しいくらいに穂風に会いたい。



穂風からの連絡はずっと未読状態にしてる。



これ以上関わったら抑えきれなくなりそうで。



まじで俺、どうしたんだよ。



その日、終電を逃した俺は事務所の社長・小太郎さんの家に泊めてもらってから始発で帰った。



女と会って、何もしないで朝帰り…。



超~健全…。



ハハ…。
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