海よりも深くて波よりも透明

「可愛いこと言ってくれんね」

「可愛いでしょ」

「明日も学校あんだろ。明日、海でな？」



ケチ～…。



でも夏葉も色々忙しいんだろうな…。



嫌われたくないから今日のところは我慢する！



プライドの高いあたしが、嫌われたくないからなんて思うとは…。



恋ってすごいんだね。



夏葉が家まで送ってくれた。



「じゃあな」

「あ、夏葉、待って」



家の前に停められた車。



夏葉の襟を引いて、一瞬だけキスした。



どう？



びっくりした？



だけど夏葉はにやっと笑った。



「下手くそ」



そう言って、あたしの後頭部を支えながら、身を乗り出してあたしに…。



食べられるようなキス…。



頭がぼーっとする…。



「ん、じゃあな」



ぼけーっとしたまま、車を降りた。



あたしに向かって軽く手を振る夏葉に手を振り返して、家に入ろうとした。



「今帰ったのか？」



えっ…。



家に入る前にあたしに声をかけてきたのはパパ。



パパはこの前のMSC以来まだ日本にいる。



あたしを見てから車に気づいて、車の中の夏葉を見た。



パパが、「誰？」と言わんばかりにあたしを見る。



えっ…と…。



夏葉が慌てて車から降りてきた。



「岩崎龍臣…さん、ですよね」

「…」

「穂風さんとお付き合いさせてもらってます、桐本 夏葉です」



夏葉がそう言ってお辞儀した。



付き合った初日から親に挨拶することになるなんて夏葉も思わなかっただろうな。



なんか申し訳ない…。



普段から口数があまり多くないパパは、こうして見るとすごく怖く見える。