海よりも深くて波よりも透明
「あんたちょっと順位にこだわりすぎじゃない?」



いきなりなに…?



何でいきなりそんな風に言われないといけないの?



「何が悪いの?」

「そんな順位にしがみついてたらいつか溺れるよ」



はっきりとそう言うママ。



意味が分からない…。



岩崎龍臣と川村そよ子の娘というプレッシャーの中で、ひたすら実力をつけることであたしという存在をアピールしてきた。



そうしないと舐められるから。



どれだけあたしが努力してると思ってるの?



「ママにはわかんないよ」



そう言い捨てた。



なんで急にこんな気持ちに突き落とされなきゃいけないの…。



やばい、なんか泣きそう…。



ママのことは大好きだけど。



生まれたときからそんな世界で生きてきたあたしの気持ちなんて、実力だけで無名から這い上がってきたママに分かるわけがない…。



涙がこぼれかかってる。



泣きたくない…。



無意識に隣の夏葉の手を強く握りしめた。



夏葉はそんなあたしに気づいたみたいだ。



「そよ子さん、このグラスどこのっすか? すげえキレイ」



そんな風に言って、明るく雰囲気を変えた。



そして、ママと話しながら、あたしの頭を強めに撫でる。



大好き…。



「この辺のお店。良かったら連れてく?」

「いいんすか!? 行きたい!」

「じゃあ早く食べな~」



ママはそれから、作業の続きをちょっとしてくると言ってシェイプルームに戻っていった。



ママがいなくなった瞬間、涙があふれて止まらなくなった。



夏葉が引き寄せてくれる。



夏葉の肩にあふれ出る涙を吸わせた。



夏葉があたしの後ろ頭を撫でてくれる。

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