薬師見習いの恋
「まったくスミにおけないな。俺たちは朝には交代だからそれまでに帰れよ。村に入れなくなるぞ」
「ありがとう」
 ひやかしに軽く応じ、兵が開けた道を歩く。

 マリーベルはもやもやしたものを抱えてフロランに続き、森にさしかかったところで文句を言う。
「あんなのってないわ。騙すにしたってもっと方法があるじゃないの」
 マリーベルは年頃らしい潔癖さでそう言った。好きでもない男性と逢瀬に向かうと思われるのは嫌だった。

「あなたはマントをかぶっていた。兵には誰なのかはわからない」
「そうだとしても」

「あなたは私に脅されて森に行く、それでいいんだ」
 フロランの言葉に、再度マリーベルは口をつぐんだ。

 なにか、彼も焦っているようだ。
 エルベラータも発病したと聞いたから、そのせいだろうか。護衛として彼女を助けようとして、命までかけた。

 マリーベルはぎゅっと拳を握りしめた。
 みんな、それぞれに大切な人がいる。
 こういうことにこだわっている場合じゃなかった。

「早く行きましょう。私は脅されてなんかない。自分の意志で森にいくの」
 マリーベルの言葉に、フロランはフッと笑う。
「頼もしいお嬢さんだ」
 ふたりは薄暗い中を、できる限りの早足で急いだ。
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