薬師見習いの恋
6 銀蓮草
 遅い。いくらなんでも遅い。
 ロニーは薬を調合しながら苛立っていた。マリーベルが帰って来るのが遅すぎるからだ。

 薬の材料は圧倒的に少ない。予想より患者が多過ぎて、軍が持ってきた薬の材料は数日と経たずになくなるだろう。
 再調達の手配は済んでいるが、届くまでの日数は不明だ。

 どうしても、マリーベルが見つけたという月露草の場所が気になる。
 彼女が帰ってきたら場所を聞き出して自分が採りに行こう。
 そう思うものの、肝心の本人が帰ってこない。屋敷までは歩いて十分もかからないのに。

 もう日が暮れようとしている。
 なにかあったのか。
 もしや彼女もまた病に倒れたのでは。

 心配になるが、少しでも多くの調剤をしたいがために迎えにいくこともできない。

 病気が流行る前、村を出たロニーは隣町に向かった。二日後に到着し、一晩をそこで過ごしてから街道を東の国境に向けて歩いていた。

 フロランが追いついたのは街道を歩いていたときだ。
 空馬の手綱をひいて来た騎馬に驚き、それがフロランであったことにさらに驚いた。

『エンギア熱が発生した。貴殿の力を借りたい』
 フロランの言葉は端的だった。ロニーは迷いなく了承し、渡された空馬に騎乗した。

 ふたりで町に行き、軍と合流、軍から四頭の馬を借り受け、ふたりでそれぞれ空馬をひいて走る。馬が疲れたら空馬に乗り換え、また疲れたら乗り換える。途中で馬を休憩させる時間はどうしても必要にはなるが、一頭で走り続けるよりは早く村に戻れた。
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