薬師見習いの恋
 この村の人たちは自分を助けてくれた。
 今度は自分が助ける番だ。
 そう思いながら、まっさきに頭に浮かぶのはマリーベルのことだ。

 ロニーにはこの村とマリーベルは切っても切り離せない。最初にロニーを助けてくれたのは彼女で、彼に無邪気になつき、きらきらした目で自分を見る彼女がまぶしかった。

 病に敗れ、逃げるように薬草を探す旅に出た。こんな自分を尊敬し、慕ってくれる人がいる。
 それは打ち砕かれたロニーの心を回復させてくれた上、再度の(ともしび)をともしてくれた。

 必要としてくれる人がいる。自分の力で貢献することができる。
 それがどれだけ心強いことか。
 彼女が自分を好いてくれていることは察していた。

 だが、自分には銀蓮草を探す使命がある。だからそれとなく距離を置こうとしたが、離れがたいものがあり、彼女の求めるままに薬師の仕事を教えていた。

 同じ時間を過ごせば過ごすほど、彼女にひかれていった。
 だが、彼女はこの村でこそ幸せになれるだろう。銀蓮草というあるのかどうかもわからない薬草を求めてさまよう自分では彼女を幸せにすることなどできない。

 アシュトンから退去を求められたとき、いっそ安堵する自分がいた。
 村を出て行く理由ができた。アシュトンは彼女にひかれているようだし、彼のように将来が安泰である男のほうがマリーを幸せにできるだろう。身分違いの結婚は大変なこともあるかもしれないが、それでも金銭面での苦労がなくなるのは大きいに違いない。

 そう思っていたのに、事態は思わぬ方向へ転んだ。
 そうして、ぼろぼろになったマリーベルに再会した。
 ロニーに会うなり安堵で倒れた彼女。
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