薬師見習いの恋
 王都で仲間とともに奮闘していたロニーですら無力に打ちひしがれ、心が折れた。

 正式な勉強をしたわけでもないのにひとりで村の人たちの命を支えるなど、どれだけの重圧があっただろう。どれだけ心細かっただろう。
 やつれ果てた彼女の姿を見たときにはその痛々しさに胸が痛んだ。

「……薬師どの、少しはお休みになられては」
 気遣ってかけられた兵の声に、ロニーははっとした。手の中の乳鉢にある薬草はとっくに粉になっているのに、思考に沈んでしつこく混ぜ合わせていたようだった。

「私は大丈夫です」
「しかし、ろくにお休みになられておりませんでしょう」
「私ならレミュールでこの病気にかかっていて免疫もありますから」
 静かな、されど有無を言わせない彼の口調に、兵は黙る。
 ロニーは少し威圧的になっていた自分に気がつき、大きく息を吐いた。

「お気遣いありがとうございます。休憩をいただいてもよろしいでしょうか」
「そうなさってください」
 兵はホッとしたように言う。

「しばらくお願いします」
 ロニーは家を出て屋敷に向かう。
 早足で向かうこと数分、屋敷に着いてドアノッカーを鳴らすとすぐに使用人が現れた。

「マリーがここに来ましたよね?」
「来ましたよ。もう帰ったと思いますけど」

「いえ、まだ家には……」
 言ってから、自宅に戻ったのか、と思う。
< 104 / 162 >

この作品をシェア

pagetop