薬師見習いの恋
「エルベラータ様!」
「殿下!」
 ロニーとアシュトンは頭を下げ、従僕もまたうろたえながら頭を下げた。
 エルベラータは壁に手をついて自身を支え、つらそうに立っていた。

「どうしてこちらへ。お休みになってください」
 アシュトンはふらつくエルベラータを支えようと歩み寄るが、彼女は手でそれを制する。

「さきほど、フロランとマリーが外を歩いているのを窓から見た。あのふたりが、と不審に思ったが、なにかあったな」
 エルベラータはちらりと従僕を見る。彼はびくっと震えて目をそらした。

「話せ。罪には問わないし、アシュトンにも断罪させない。大事なことなのだろう」
 従僕はアシュトンを窺い見る。彼は不機嫌に鼻を鳴らして目をそらす。

「頼みます。マリーが心配なのです」
 ロニーが言う。

「……薬を、必ずくださいますか。母が高熱で何日も寝込んでいて、息もすごく苦しそうなのです」
「私は村の人全員を救いたいと思っています。ですから、お願いします」
 ロニーの言葉に、従僕は話し始めた。

 マリーベルが薬草をとりに森に行こうとしてアシュトンが止めたこと。アシュトンが地下室に彼女を閉じ込めたこと。フロランが自分を脅してマリーベルを連れ出したこと。

「ですから、森へ向かったのではないかと……」
「わかりました!」

「待て!」
 すぐさま飛び出そうとしたロニーを、エルベラータが止める。
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