薬師見習いの恋
「寄るな、うつるぞ。ロニー、頼んだ」
「マリーは必ず連れて帰ります」
 ロニーは言い置いて背を向けた。
 マリーベルを、ひいてはこの村を助けるために、一刻の猶予もならなかった。

***

 残照に照らされる森への道で、マリーベルはミントを見つけた。
 それをむしってフロランに渡し、またむしって、今度は自分の体にこすりつける。

「それはなにを?」
「魔獣除けです。本当に効くかはわかりませんけど、虫よけにはなるので」
 言われたフロランもミントをこすりつけた。

「道はわかるか」
「目印をつけてあるので」
 小枝を折って作った道しるべだ。暗くなった今はどれほど見えるかわからないが、ランタンがあるからきっと大丈夫だろう。

「森の中は足元が悪いので気を付けてください」
「訓練を受けている。心配ない」
 フロランの言葉は力強かった。

 ふと、ロニーになにも言わずに来てしまったことに気づいた。
 心配しているだろうか。

 だが、今さら戻ることもできない。
 なるべく早く帰ってこよう。きっと大丈夫、魔獣なんかそうそう遭いっこないわ。
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