薬師見習いの恋
 マリーベル達との距離がどれくらい開いているかはわからない。その上、マリーベルが森のどちらへ向かったのか、手掛かりはない。
だが、早く追いついて、危険な森から連れ出さなければ。
 ロニーは急ぎ足で森へと入り込んだ。

***

 マリーベルとフロランは枝の印を確認しながら森の中を慎重に歩いていく。
 夜の森は昼間とはまったく違う表情を見せていて、マリーベルは恐怖を隠しきれなかった。

 先はまったく見通せないし、繁った木々の葉は月の光を通さない。そよぐ風にざわざわと騒ぐ様は目に見えぬ悪霊が騒いでいるかのようにも思える。
 夜行性の小動物が落ち葉をがさりと鳴らすたびにマリーベルはびくっと震えた。

 足元はおぼつかず、うねうねとはびこる根になんども足をとられ、ころびかけた。
 森に慣れていないはずのフロランのほうが足取りがしっかりしていて、さすが軍人は違う、と感心した。
 なんどめかに足をとられ、とうとうマリーベルは転んだ。

「大丈夫か」
「大丈夫」
 すぐに起き上がり、歩き出す。
 こうしている間にも患者は苦しんでいる。早く月露草を手に入れて村に持って帰りたい。

 だというのに、いつにない体のだるさを感じていた。
 汗を異常にかいている気がするし、視界がぐらぐらする。
 夜の森のせいだろうか、と考えてから、ハッとした。
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