薬師見習いの恋
 もしかして発病したのだろうか。
 マリーベルはその可能性を頭から追いやった。
 考えちゃダメだ。
 今はまだ、病気になっている場合じゃない。

 マリーベルは必死に歩き、ようやくその場所にたどりついた。
 木々の途切れたそこには清流が月光を浴びてきらめき、周囲に咲く月露草はうっすらと輝いている。風がそよりとふいて、淡い光がさわさわと揺れた。

「美しい……」
 フロランが思わずつぶやく。

「この花が薬草なんだな」
「たくさん摘んで帰りましょう。でも全部はダメです。来年のために残さないと」

「しかし、それで足りるのか?」
「わかりません。どのみちふたりで全部を摘むのは無理ですけど」
 マリーベルは正直に答えた。
 万能薬になるとはいえ、一服で治るわけではない。

「朝までには帰ろう。でないと今度は村に入れなくなるかもしれない」
 フロランの言葉にマリーベルは頷く。

 兵士が見逃してくれたのは、彼がフロランと顔見知りで密会だと思ったからだ。交代した兵士がそんな融通をきかせてくれるとは思えない。
 マリーベルはフロランに摘み方を教え、フロランが持ってきたずた袋がいっぱいになるほどに摘んだ。

「とりあえずはこれで様子を見ましょう」
 マリーベルの言葉にフロランが頷いたときだった。
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