薬師見習いの恋
 風が吹き、フロランの持ってきたランプの灯が消えた。
「明かりが……!」
「だが、夜明けまではまだ時間がある。ゆっくり帰っても間に合うだろう」
「そうですね」
 本音を言えば一刻も早く帰りたい。そのためには少しでも足元を照らす明かりは欲しいところだった。

 だが、消えてしまったものは仕方がない。
 歩き出そうとしたとき、マリーベルの足から力が抜けてがくんと倒れ込む。

「大丈夫か!」
 フロランがマリーベルを助け起こす。
 異変に気づいたフロランはマリーベルの額に手を当てた。

「ひどい熱だ。ずっと我慢していたのか」
「大丈夫、まだ熱だけだもの。あなたは離れたほうがいいわ。うつってしまうから」

「俺は大丈夫だ。早く帰ろう」
 フロランが助け起こしたとき。

 がさり、と大きな足音が響いた。
 暗い影がふたりの前に落ち、マリーベルは息を呑んだ。
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