薬師見習いの恋

***

 ロニーはすぐにその印に気がついた。
 いつかマリーベルが言っていた、迷子にならないための方法だ。彼女は猟師の父から教わったと言っていた。

 折られた木の枝を手掛かりに歩く。月露草への道しるべだろう。
 とにかく追いつかなくては。
 ロニーは急ぎ足で進む。

 やがてせせらぎの音が聞こえ、木々の隙間に人影が見えた。そちらはなぜかうっすらと明るく見える。
 近付くにつれ、明かりの正体に気がついた。
 遠目にも、花が淡く輝いているのが見えた。

 あれが月露草か。
 咲いているのを見るのは初めてだった。手に入るのはいつも、干して乾燥させたものばかりだったから。

 人影はこちらに背を向けていて、まだロニーには気づいていない。
 人影が立ち上がり、ひとりがふらついて倒れた。もうひとりが助け起こそうとしている。

 ロニーは急いで近づく。
 息をきらしてふたりの前に立つと、ふたりは驚いたように顔をあげた。

「ロニー……」
 マリーベルが呆然とつぶやく。

「心配しました。どうして勝手に来たのですか」
「だって……」

「彼女は悪くない。俺が脅したんだ」
「違うわ」

「……話はあとにしましょう。薬草を採取したのですね。早く帰って調合を」
 言いかけたロニーはマリーベルの異変に気がつく。夜目にも顔が赤く、走ってもいないのに息が上がっている様子だ。
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