薬師見習いの恋
 返り血を浴びたフロランが大きく腕を振ってふたりに来るように合図をし、マリーベルとロニーは頷き合って魔獣の元へ向かった。
 ふたりが近づくと、フロランは言った。

「どうやら、口の中に刺さったルーの矢が、木に激突したことで頭の奥深くまで刺さって絶命したようだ」
 フロランの言葉に、マリーベルは大きく息を吐いた。ロニーもまた安堵の息をつく。

「銀蓮草に月露草、魔獣を倒すこともできて、これで村のみんなが助かるわ……」
 ほっとした途端、マリーベルの体から力が抜けた。よろけた彼女をロニーが支える。

「マリー!」
「俺は銀蓮草を持って行くから、貴殿はその少女を頼む」

「わかりました。マリー、私の背に」
 ロニーが言う。

「……大丈夫、歩けるわ」
「遠慮せず甘えておけ」
「そうですよ、遠慮しないで」
 フロランに同意して、ロニーはマリーに背を向けてしゃがむ。

「だけど……」
「俺を早く医者に見せたいと思うなら、そうしてくれ」
 フロランの言葉にマリーベルは観念した。

「……ありがとう」
 マリーベルはもじもじしながらロニーの背に体を預ける。両腕を彼の体の前に回してしがみつくと、彼は苦もない様子で立ち上がった。

 マリーベルは自分の早くなった鼓動がロニーに伝わってしまうのではないかと心配になった。
 こんな状態なら、熱はさらに上がる一方になってしまうだろう。

 自分を落ち着かせようと空を見上げると、暗い森の木々の隙間から、輝く星が覗いていた。
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