薬師見習いの恋
 以前とは違う。ひとりじゃない。
 それがマリーベルの背中を押してくれていた。

 その日は泊まり込みでロニーの世話をしながら薬を作った。
 アシュトンが訪ねて来たのは次の日のことだった。

 そのときマリーベルはロニーの家の隣の天幕で衛生兵と一緒に薬を調合していた。
 話があるというので休憩をもらい、天幕から離れたところでアシュトンと話をする。

「ロニーが倒れたと聞いたが、大丈夫なのか?」
 アシュトンが心配そうにたずね、マリーベルは安心させるように微笑した。

「免疫があるから他の人より軽いみたい。高熱なのは変わらないんだけど、薬もあるし、落ち着いてるわ」
「そうか」
 アシュトンはため息とともに頷いた。

「心配してくれたのね、ありがとう」
 マリーベルの感謝に、アシュトンは沈痛な表情で首を振った。

「俺はお礼を言われる立場にない。君を閉じ込めて……」
「私を心配してくれたからでしょう?」

「それだけじゃないんだ」
「どういうこと?」

 マリーベルに問われ、アシュトンは、だが、その先を言えない。好きだから、そんなことを言ったところでなんの免罪になるというのか。彼女の意志を無視し、村のみんなの命がかかる場面でマリーベルを優先した。それが事実であり、代替案もなくそれを実行した自分は許される存在ではないと思っていた。

「とにかく、俺は君にひどいことをした。謝って済むことじゃないかもしれない。だけど、ごめん。申し訳なかった」
 アシュトンが頭を下げると、一緒に赤茶の髪が揺れた。
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