薬師見習いの恋
 変わってない、とマリーベルは少し嬉しくなった。
 苛立ったときなどに意地悪をしてくるものの、すぐに後悔して謝って来る、そんな幼い日のアシュトンが思い出された。

「いいよ、みんな苦しいんだもの、判断を誤るときだってあるわ」
 アシュトンは顔を上げた。そこにある表情は苦く、決して彼は自分を許さないのだろうとわかった。
 ならばなおさら、と彼女は思う。なおさら自分くらいは彼を許してあげなくてはならない。

「マリーは優し過ぎる」
 アシュトンは吐き捨て、うつむいた。

「俺はひどい奴なんだ。ロニーがいなくなればいいと思って追い出した」
 マリーベルは目を見張った。
 ロニーは退去期限なんだと言い張っていたが、やはりアシュトンが追い出したのだ。

「ロニーが回復したらちゃんと本人に謝ってね」
「君は怒らないのか?」

「アシュトンがそんなことをしたのは残念だけど……でも、後悔してるから来てくれたんでしょう? だったらそれでいい」
 アシュトンは天を仰いだ。

「不甲斐ない……マリーにもロニーにもなにもかも負けている。こんな俺ではふさわしくない」
「え?」
 どういう意味かわからなくて、マリーベルは聞き返した。

「俺はマリーが……」
 アシュトンは天を仰いだまま、言いかけて言葉を止める。
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