薬師見習いの恋
 やがて、ぎゅっと目を閉じて首を振り、マリーベルを見る。

「マリー、君には幸せになってほしい」
「うん……ありがとう」
 マリーベルは素直にお礼を述べた。

 彼女はアシュトンが罪悪感からそう言っているのだと解釈していた。それ以上の意味が込められているなど、知る由もない。

「ロニーにはまた後日、謝罪に来る。まだしばらく頼んだよ」
「わかったわ」
 マリーベルは力強く頷く。

 アシュトンはまるで太陽でも見るかのようにマリーベルに目を細め、それから屋敷へと戻っていった。



 マリーベルはそれからも薬師として働いた。
 銀蓮草は重症者に処方し、月露草はなるべく多くの人にいきわたるように処方した。

 足りなくなればまた月露草を採取しに行った。今はもう魔獣がいないのでひとりでも採りに行ける。
 村外への外出禁止も森への立ち入り禁止も解かれていないが、マリーベルとロニーだけは例外として認められた。

 エルベラータは一足早く快復して村のために動いていた。
 ロニーの回復後、アシュトンは宣言通りに謝罪に来た。ロニーは苦笑して許し、薬師に復帰した。

 それぞれに果たすべき役割を果たし、村が落ち着くにはそれからさらに半月程を要した。



 秋は徐々に深くなり、早朝の冷たい空気に身を震わせ、マリーベルは自宅を出た。
 相変わらず薬を調合して配る毎日だが、日に日にその数は減ってきている。
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