薬師見習いの恋
 エルベラータは顔をしかめた。
「めんどくさいことになったようだな」

 マリーベルは思わずロニーを見た。彼は困惑を浮かべている。
 最近、村では森へ入れないことへの不満が増えていた。

 本来なら秋の恵みを得られる時期だ。それを魔獣によって長い間妨げられ、ようやく魔獣がいなくなったのにまだ森に入れない、疫病のせいで冬の準備もろくにできなかったから不安でたまらないのだ。

 とくに欲しいのは月露草だ。高値で売れると知った彼らはなんとしてでも手に入れたいようで、毎日のように交渉に来ては断られている。こっそり森に侵入しようとして兵に止められた者もいるという。

「申し訳ございません、私が対処してまいります」
 立ち上がるアシュトンに、エルベラータは手で制した。

「いや、まとめて片づける。私が出向こう」
「しかし」
 アシュトンは戸惑うが、エルベラータは引かない。

「村人にも思うところはあるだろう。人を介さずに意見を聞くよい機会だ、レミュールではこうはいかないからな」
 快活に笑むエルベラータに、アシュトンは護衛のふたりを見た。
 ふたりは黙って頷き、アシュトンは頷き返した。

「かしこまりました。ご案内いたします」
 アシュトンの言葉にエルベラータは立ち上がる。
 アシュトンにモリスが続き、エルベラータをはさんでフロランが歩いて行く。

「私たちも行こう」
 ロニーの言葉に、マリーベルは頷いた。
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