薬師見習いの恋
「王女殿下の心ははいつでも国民とともにある。これからも良き導き手となるであろう!」
 フロランが叫ぶと、村長のゼロムはエルベラータを見る。

 彼女は笑みを浮かべ、泰然と頷く。

 ゼロムは自然と膝をつき、エルベラータにこうべをたれていた。

 それを見た村民は次々と同じように跪き、頭を下げる。
 それは波紋のように群衆に広がり、静かな敬意がエルベラータに注がれた。

 集まった村人全員が膝をついてエルベラータに敬意を表している。

 マリーベルは呆然とその光景を見ていた。
 さきほどまで村人たちは攻撃的で、いつそれが行動に出てもおかしくなかった。

 だというのに、エルベラータはそれをこうまで見事に治めてしまった。
 彼女ならきっとこの村を……ひいては国を良くしてくれるに違いない。
 マリーベルの胸は期待にときめいていた。



 屋敷のリビングに戻ったマリーベルはぐったりとソファに座り込んだ。王女様の前でみっともないとかそういうことを考える余裕もないほどに疲れ果てていた。

 村民たちは興奮冷めやらぬまま兵士によって解散させられ、ようやくマリーベルたちは中に戻ることができたのだ。

「解決してよかった……」
「いや、まったく解決していない」
 難しい顔のエルベラータにマリーベルは驚く。
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