薬師見習いの恋
 ロニーは微笑を浮かべて言う。
 マリーベルは息を呑んだ。

 なんの話か、想像がつかない。唯一思い浮かぶのは、ロニーがいよいよここから去るという、その話ではないかということだけだ。

「……わかった」
 マリーベルは覚悟を決めて頷いた。



 月露草の生えている清流まではたわいもない話をして歩いた。
 清流のそばの岩にふたりで並んで腰掛け、もらった包みを開ける。

 中にはチキンと野菜のサンドイッチがあり、甘く煮たナツメのミンスパイも入っていた。
 それらをおいしくいただく間もロニーは雑談を続け、本題はなかなか話さない。

 食べ終えたふたりは清流を眺め、ほのかに輝く月露草を眺めた。
 紅葉を迎えた木々の下でさやかに咲き誇る花々を見るのは眼福以外のなにものでもなかった。

「わざわざ来させてすみません」
 ロニーの謝罪に、マリーベルはびくっとした。
 いよいよ本題に入るのだ、と思って身構えた。
「大丈夫よ」

 ロニーは微笑したが、秋の日差しのせいかやけに寂し気に見える。

「あなたには本当のことを話しておきたいのです」
「はい」
 神妙に頷くマリーベルに、ロニーはぽつぽつと話し始めた。
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