薬師見習いの恋
 ロニーは限界を感じ、終息宣言が出るころには完全に燃え尽きていた。
 自分の無力さに打ちひしがれ、あの薬さえあれば、と銀蓮草を思った。

 幻と言われるほど希少な薬。それがあればもっと多くの人を救えた。

 伝染病はエンギア熱だけではない。高熱を発する伝染病はいくつもあるし、高熱で済まない病気もたくさんある。

 だからロニーは講師の話を断り、銀蓮草を探す旅に出た。
 一種の現実逃避だったのかもしれない。

 現時点での薬剤の研究を進めた方が早いのかもしれず、そうでなくてもまだまだ人手がほしい時期に薬師がいなくなることで現場が困るかもしれない。

 だが、現状のままでいることはできなかった。
 国中を旅して、最後の望みを託してナスタール村に来た。
 ここでダメなら外国へ探しに行くつもりだった。

「ですが、この村の人たちの優しさに触れ、私はためらってしまいました」
 ぬるま湯のように居心地がよくて、平和でのどかな理想郷のような村だと思ってしまった。
 言い訳のようにこの村にある可能性にすがり、銀蓮草を探し続けた。

「あなたには禁止だと言いましたが、森に入ったこともなんどもあります。銀蓮草どころか月露草も見つけられませんでしたけどね」
 ロニーは自嘲の笑みを浮かべた。

「まさか銀蓮草が寄生種だとは思いませんでした。生きている動物に寄生する植物など初めて見ました」
「私も初めてです」

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