薬師見習いの恋
「これは極めて異例のものです。学会誌に発表したいのですが、マリー、あなたの名前を出してもいいですか?」
「え? はい……」
 戸惑いながらマリーは答える。彼女にはそもそも学会誌がなんなのかもわからない。

「初めは銀蓮草さえ見つかればと思っていました。ですが魔獣に寄生する種では栽培はおろか、再度の発見すら難しいでしょう」
「そうね……」
 魔獣の種類は限定されるのか、動物でも大丈夫なのか。人間にまで寄生するのであればむしろ危険な植物ということになる。

「銀蓮草の確保は今後も難しいでしょう。ですが月露草がこんなに群生している場所も稀有です。ここを確実に保存して生育条件を見守っていく必要があります。それがわかれば人工栽培で大量に生産できますからね」
「そのためにこの土地を国有化したのね」

「決して私利私欲のためではないんですよ」
 先を見据えて決断できるのは王女だからだろうか。マリーベルとはまったく違う視点でものごとを判断していく、それが同じ女性だということがなんだかうれしい。

「私はしばらくしたらレミュールに発ちます」
「いつ……?」

「二、三日といったところです」
「そうなのね……」

「あとのことはお願いします」
「はい。任せてください」

 マリーベルは胸を張って答える。
 ロニーが心置きなく旅立てるように。
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