薬師見習いの恋
エピローグ
 王都に戻ったロニーは銀蓮草についての論文を発表した。

 その論文は学会を揺るがした。それまで発見されたものはすべて地面に生えているものだった。銀蓮草の生体を手に入れた学者がどれだけ人工栽培に挑戦しても失敗が続いて枯らしていた。魔獣に寄生して成長するのであれば、ほかの植物と同様に栽培していては枯れるの必然だ。また、銀蓮草の生えている周囲には必ず魔獣の死骸があることも論文の裏付けとなった。

 地面に生えていたものは魔獣の命が尽きた際にそのまま地面に根を生やし、そういったものが発見されてきたのだろう。
 発見の功はマリーベルにあるとされ、彼女は一躍、時の人となった。

 ロニーはまた、寄生された魔獣は気性が荒くなるのではという仮説も発表した。植物に栄養を取られた魔獣はそれを補うべく必死にえさをあさり、人をも襲うのではないかというのだ。
 確証のない仮説ではあったが否定する証拠も存在せず、人々は魔獣への警戒をあらたにした。



 数年後、ナスタール村の近くには立派な薬学院が建設されていた。
 その敷地には薬草園があり、様々な薬草が育てられた。国有地となった森の月露草の管理、研究は学院が行うことになった。

 マリーベルは建設に先立って王都レミュールで薬の勉強をしたのち、副学院長であるロニーの妻となり、彼の助手として彼の薬の研究を補佐することになった。

 月露草は研究が進み、環境を整えて他の地域でも少しずつ栽培ができるようになってきている。
 エンギア熱は弱毒化し、ひどい風邪程度にまで症状が落ち着いてきていた。
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