薬師見習いの恋
季節は巡り、日差しにぬくもりが感じられる春、マリーベルはロニーと寄り添って森へと向かっていた。
今日は仕事が休みだが、特別に森に入る許可をもらっていた。
名目は月露草の観察だが、実際の目的は違う。
途中から月露草の咲く清流への道からそれて獣道を歩く。しばらく行ったところに目当てのそれが咲き乱れていた。
「きれい……!」
マリーベルはうっとりと見とれる。
一面のブルーベルだった。
釣鐘のような花が茎の片側にいくつも咲いて垂れ下がっている。木々の隙間をうめるようにびっしりと咲き乱れるさまは幻想的ですらある。
「みんなに見せてあげられないのが残念だ」
ロニーはマリーベルの肩を抱き寄せる。
結婚して数年、ロニーの口調は砕けている。
「でも誰も来ないからたくさん咲いているのよね」
ふたりはピクニックシートを敷いて座り、お弁当を広げた。
ロニーが葡萄酒をカップに注ごうとすると、マリーベルは慌てて止めた。
「私、しばらくお酒はいらないわ」
「そう?」
不思議そうにロニーは水筒を手にする。
「あのねロニー」
マリーベルはうつむき、ロニーは準備の手を休めて彼女を見た。