薬師見習いの恋
 とっさに腰のポーチに手をやるが、そこに入っているナイフは薬草を摘むときに使うものであって、自分には獣をナイフ一本で撃退することなどできない。

 狼や熊、魔獣なら、早く逃げなくてはならない。
 かごの取っ手を掴んだとき、茂みから人が現れてホッとした。

 馬を引いた三人の人だった。
 が、マリーベルは首を傾げた。

 装飾が少なくても高そうだとわかる服に身を包むのは見慣れない人たちだった。そのうちのひとりはどう見ても女性――それもとびきりの美女なのに、男性のかっこうをしている。

 お供らしい男性ふたりは武人のようで、剣を腰に下げていた。
 三人の連れている馬もまたこのあたりでは見たことのないような立派な体躯をしており、その鞍もまた上等なものだった。

 女性はマリーベルを見ると、すまないが、と声をかけた。

「このあたりにロナルシオ・レンタード・エルシュネルはいるか。ロニーと名乗っているかもしれない」

 告げられた名に、マリーベルは顔を青ざめさせた。
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