薬師見習いの恋
 今は誰にも会いたくないのに。水を汲みに行ったら、嫌でも誰かに会ってしまう。

 村の中心には広場があり、そこには泉と神をまつった聖祠がある。泉の隣には洗濯場があり、午前中は洗濯をする女性でごった返す場所でもあったが、今はひと気がない。

 うつむいて歩いているせいか、泉に着くまでは誰にも話しかけられなかった。
 壁泉(へきせん)のライオンの口から吹き出る水を桶に受け、満杯にしてから振り返る。

「あら、マリー!」
 タニアがたたっと走ってきた。桶を持っているところを見ると、彼女も水を汲みに来たようだった。

「聞いたわよ、美女がロニーに会いに来たんだって?」
「うん……」

「やばいわ、どうするの」
「どうって……」

「好きなんでしょ? 取られちゃったら大変よ!」
 答えられず、マリーベルはうつむく。

「もう、はっきりしないわね! ただでさえロニーを狙ってる子は多いのに!」
「そんな……」

 そんなこと知らなかった。狭い村だから、お互いの恋愛事情は筒抜けになりがちだ。タニアとルタンがつきあっていることは周知だし、ルタンの友達のサミエルがリリアンに片想いをしているのも村中に知れ渡っている。それ以外にも誰それと誰それが仲がいいとか良くないとか、みんな知っている。

 とはいえマリーベルはロニーのところに通ってばかりだから最近の情報にはうとい。
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