薬師見習いの恋
1 マリーベルの恋
朝食を終えたマリーベルはがたっと席を立つと食器を炊事場に持って行った。水甕からすくった水で洗い、水切りかごに立てかける。
壁にかけてあったポーチを手に取り、腰に付けた。中に入っているのはナイフと皮手袋だ。ナイフは固い茎の薬草を摘むときに使い、皮手袋は草の汁などでかぶれないようにするためだ。
「マリー、もう行くの?」
母に愛称を呼ばれ、彼女は振り返った。この狭い家は玄関から入ってすぐに台所があり、テーブルについた両親はまだ朝食の途中だった。
「私は一番弟子だもの。行ってきます!」
答えながら、もう扉を開けている。
「お邪魔にならないようにするのよ!」
「わかってる! 生ごみは養豚場に捨ててくるね!」
レターナの声を背に受けて、マリーベルは扉を締めると走り出した。
彼女は薬師のロニーの家に向かったのだ。見習いとして毎日彼のところに行き、仕事を手伝っている。
「まったく、あの子ったら家の手伝いもしないで」
「仕方ないさ、恋をしてるんだから。いつか彼は帰る、それまで見守ってあげよう」
レターナのぼやきに夫は温かく言葉を返す。
ロニーはふらっとやってきた青年。丁寧な言葉遣い、美しく優雅な所作、豊富な知識、それらから彼が貴族の出身だろうことは察せられた。いつか彼は彼の場所へ帰るだろう。恋をしたところで、立ちはだかる身分の壁を超えることなどできない。
マリーベルもそれは察しているはずだった。
だが十七歳のマリーベルには実感を伴わない、ふわふわした未来に過ぎなかった。
壁にかけてあったポーチを手に取り、腰に付けた。中に入っているのはナイフと皮手袋だ。ナイフは固い茎の薬草を摘むときに使い、皮手袋は草の汁などでかぶれないようにするためだ。
「マリー、もう行くの?」
母に愛称を呼ばれ、彼女は振り返った。この狭い家は玄関から入ってすぐに台所があり、テーブルについた両親はまだ朝食の途中だった。
「私は一番弟子だもの。行ってきます!」
答えながら、もう扉を開けている。
「お邪魔にならないようにするのよ!」
「わかってる! 生ごみは養豚場に捨ててくるね!」
レターナの声を背に受けて、マリーベルは扉を締めると走り出した。
彼女は薬師のロニーの家に向かったのだ。見習いとして毎日彼のところに行き、仕事を手伝っている。
「まったく、あの子ったら家の手伝いもしないで」
「仕方ないさ、恋をしてるんだから。いつか彼は帰る、それまで見守ってあげよう」
レターナのぼやきに夫は温かく言葉を返す。
ロニーはふらっとやってきた青年。丁寧な言葉遣い、美しく優雅な所作、豊富な知識、それらから彼が貴族の出身だろうことは察せられた。いつか彼は彼の場所へ帰るだろう。恋をしたところで、立ちはだかる身分の壁を超えることなどできない。
マリーベルもそれは察しているはずだった。
だが十七歳のマリーベルには実感を伴わない、ふわふわした未来に過ぎなかった。