薬師見習いの恋
「おはよう。今日はやけにおしゃれですね」
「タニアたちがきれいにしてくれたの」
 にこやかなロニーに、マリーベルはもじもじと手を合わせる。

「誰かとデートですか?」
 聞かれて、マリーベルの顔はひきつった。ロニーにはやはり自分は恋愛の対象外なのだと思い知らされてしまった。

 ガチャ、と奥の扉が開いて、エルベラータがあくびをしながら現れた。
「ここのベッドは固くて寝づらいな」

 マリーベルの顔から血の気が引いた。彼女は昨夜、ここに……ロニーの家に泊ったのだ。
 ふたりの男性がさっと跪き、ロニーが立礼をする。

「そういうのはやめてくれ」
 言って、エルベラータはマリーベルに気付いて眉を上げた。

「昨日の……えっと」
「マリーベルです」
「マリーベル嬢、今日はずいぶんとかわいらしいな。私はこんな姿ですまない」
 エルベラータは微笑して自分の服をつまむ。

 彼女は今日も男装していた。
 男装でも美しさはかけらも損なわれず、はしたないとかみっともないとか、そんなことには一切ならない。普通の女の子なら……マリーベルなら似合わなくて笑い物になるのだろうに。

 金の髪は窓から差し込む日を受けてきらきらと輝いている。彼女の澄んだ青い瞳を見て、噂に聞くサファイアはこんな宝石なのだろうな、と思った。

「すぐにお食事を用意します」
 鍋の置かれたかまどには熾火があり、ロニーが薪をくべるとすぐに火勢を増した。
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