薬師見習いの恋
「いや、外で食べて来るよ」
「この村に食堂はありませんよ」

「田舎は不便だな。……っと、すまない」
 不満を漏らしてから、エルベラータはマリーベルに謝る。

「本当のことなので」
 マリーベルはうつむく。
「今日もお客様の対応があるから仕事はお休みです」
 マリーベルはぎゅっと口を引き結んで頷く。
 だが。

「仕事ならやっていってもらえ」
「しかし」

「私の用件は昨夜のうちに伝えた。お前の邪魔をする気はない」
「いるだけで邪魔なのですが」

「言ってくれる」
 くすくすとエルベラータは笑い、マリーベルの胸がつきんと痛んだ。
 仲良さげなふたり。年が近そうだし、まるで太陽と月のようでお似合いだ。

「そうだ、君、良かったら村を案内してくれないか」
「え……?」
 マリーベルは目を丸くした。エルベラータは邪気のない笑顔で彼女を見ている。

「マリー、この方の暇つぶしにつきあってあげてください」
「暇つぶしか……まあ、否定はできんな」
 またくすくすと笑い、エルベラータは椅子にかける。
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