薬師見習いの恋
 ロニーがあたためたスープの入った器とパンをテーブルに載せる。
「食事をする間は待たせてしまうが、頼めるか?」
「わかりました」
 マリーベルは頷いた……頷くしかなかったから。



 彼女が食事を済ませると、マリーベルはエルベラータを連れて外に出た。お供の男性ふたりも一緒だ。
 案内と言っても村には特筆するものがない。

 村の中心の泉の広場に行き、ここがみんなの水場で、こちらは大事な聖祠(せいし)で、と説明する。

 聖祠は小さな神像が置かれた場所に屋根をとりつけただけの祠だ。それでも村の大切な祈りの場所だった。なにかあると村人はここで祈りを捧げる。

「村長のゼロムさんの家があちらで、あの向こうに見えるのがルスティカ様のお屋敷です」
「ルスティカか。ティエム領の領主の別荘だな」

 答えるエルベラータは、自分をじろじろと見る女性に気づいて場所を開ける。女性は子どもを連れていて、その男の子はフロランとモリスをじっと見ていた。

「邪魔だったか、すまない」
「あんたかい、ゆうべ来た旅の人って。男の貴族みたいなかっこうして」
 女性は無遠慮に話しかけるが、エルベラータは気にした様子もなく笑った。

「このほうが動きやすいんですよ」
「だけど足をそんなに出して、みっともない」

「ちゃんとズボンをはいてますよ」
「そういう意味じゃないのよ。いい、女のたしなみっていうのはね」

「あー、そういうのは耳にタコができるほど聞かされてるのでけっこうです」
 エルベラータは慌てて遮る。
 なんだかその様子がおかしくて、マリーベルはくすっと笑った。
< 32 / 162 >

この作品をシェア

pagetop