薬師見習いの恋
「おじちゃん、これ本物の剣なの?」
 モリスが腰に下げている剣を指して子どもが言う。

「そうだよ、危ないからさわらないでね」
「兵隊さんなの?」

「そうだよ」
「すげえ、本物の兵士なんだ!」
 目をきらきらさせるこどもにモリスは優しい笑みで答える。

「おじさんもそうなの?」
「ああ、まあ……」

 モリスは優しく対応しているが、フロランは子どもに慣れないのかおろおろしている。
 気がつけば子どもたちはモリスとフロランを、女性陣はエルベラータを取り囲んでしまっていた。

「みんなやめて、お客様が困ってるじゃない。行きましょう」
 マリーベルはエルベラータに声をかけ、お供とともに広場から逃げ出した。
 しばらく歩いて村の端に来ると、エルベラータに謝る。

「ごめんなさい、みんな旅の人が珍しくて」
「いいさ、楽しそうな人たちだ。明るくて人懐っこいな」
 エルベラータは目を細めて言う。

「いい人ばっかりですよ」
 王都レミュールは素敵な物があふれているというが治安が悪いとも聞く。物を盗んだり人を殺したり、そういったことはこの村ではない。

「ロニーがここにいたがるのもわかるな」
 エルベラータの目に切ない色が浮かんだことに気づき、マリーベルはうつむく。
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