薬師見習いの恋
 彼女もきっと彼のことが好きなんだ。だからこんなに切なそうなんだ。
「君はマリーと呼ばれているのか?」
「はい」

「マリーベル嬢、私もマリーと呼んでも?」
 屈託なく言われると否やは言えなかった。
「はい」

「良かった。私はエルバでいい」
「わかりました、エルバ様」

「様もなくていいんだが……まあいいか」
 エルベラータはからっと笑う。
 笑顔が秋空のようにさわやかで、マリーはぎゅっとする胸をこらえて笑みを返した。



 昼には食事のためにロニーの家に戻った。
 椅子が二脚しかないので外に敷物を敷いて準備をする。急にピクニックが始まったみたいで、マリーベルの心は少し浮き立った。

 食事はロニーとマリーベルが用意して外に運ぶ。
 豚と玉ねぎの串焼きにきのこのスープ、ライ麦の黒いパンに小麦の白いパン、カボチャとチーズのサラダにほうれん草とベーコンのソテーなど。

 飲み物はエルダーフラワーコーディアル。ハーブティーにも利用されるエルダーフラワーはマスカットの風味を持っている。その花を砂糖とともに似て作ったシロップを水で溶き、蜂蜜とレモンを入れて味を調えたものがエルダーフラワーコーディアルだ。
 デザートにはイチジクのコンポートが用意されていた。
 こんな田舎では充分なごちそうだ。
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