薬師見習いの恋
「ごちそうだな」
 エルベラータの笑顔に、マリーベルは意外な目を向けた。彼女は貴族だからこのくらいでごちそうだと言うとは思わなかった。

「旅の間は野宿もしたんだが、そのときの食事は野戦かと疑うほどだったよ」
 エルベラータはちらりとフロランとモリスを見るが、ふたりは苦笑するのみだ。

「私の料理がエルベラータ様のお口に合うとよろしいのですが」
 ロニーが言う。
「大丈夫だ、腹は鍛えてある!」
 笑いながら言う彼女に、マリーベルも笑った。

 準備が整うと全員で神に祈りを捧げてから食事をいただく。
 エルベラータは美しい所作でライ麦パンを摘まみ、きのこのスープに浸してから口に入れる。ライ麦パンは固いからスープで柔らかくしてから食べるのが普通だった。

「うまいな」
 エルベラータの笑顔にロニーも笑顔を見せる。

「よろしゅうございました」
 ロニーもまた優雅にパンを摘まみ、スープに浸してから食べる。
 マリーベルも同じように食べたが、自分の所作との違いに愕然とした。

 今まで気にしたことなどなかった。
 エルベラータとロニーに比べ、自分の動作のなんとみっともないことだろう。
 やはり噂通りに、ロニーも貴族なのだろう。確認するのが怖くて今まで聞かなかったが、こんな形で思い知らされるとは予想もしなかった。
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