薬師見習いの恋
「ロニーはもともとレミュールにいたんだ、それはご存じで?」
「聞いたことがあります。あの物腰、貴族なのではと思っておりましたが……」

「ああ、伯爵家の三男だ。彼はあちらで薬師として働いていて、その際に知り合った」
「伯爵家の。通りで」
 ハンナは納得するように頷いたが、アシュトンは不機嫌そうに眉を寄せた。伯爵ならば男爵であるルスティカ家より家格が上だ。

「レミュールにロニーを連れて帰りたいんだが、一筋縄でいかなくてね」
「ご協力いたします」
 アシュトンは目をぎらりと光らせた。

 エルベラータは変わり者として王都でも有名だった。ここで会うなど予想もしていなかったが、ロニーを排除するのにこんな有用な人物が現れるとは、なんという幸運だろう。

 マリーベルを王都に連れて行こうとしたが彼女は乗り気ではない。ならばロニーを排除したほうが手っ取り早い。
 アシュトンはひそかな笑みを浮かべ、神に感謝した。

***

 翌朝、マリーベルは空のかごをもって鬱々とロニーの家に向かった。
「おはよう、マリー!」
 タニアが元気に声をかけてくる。

「どうしたの、元気ないじゃない」
「うん……」
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