薬師見習いの恋
「昨日はあれからどうなったの?」
「なにもないよ」

「嘘。だったらなんでそんな元気ないの。あの女になにか言われた?」
「なにも……ただ自分が情けなくて」
 禁を犯して森に行き、それでも彼の役に立てずに怒られただけで。

「でも昨日は本当にありがとう。素敵にしてもらえてうれしかった。ドレスはリリアンの物よね。洗ってから返すって言っておいて」
「負けちゃだめよ」
 タニアの励ましに、うん、と力なく笑って答える。

 タニアは恋人がいるから余裕なんだろうな、とマリーベルは思う。
 ルタンといるときの彼女はいつも楽しそうで、ケンカをしたときはつらそうで。でもやっぱり仲直りして、幸せそうで。
 恋人がいるって、どれだけ頼もしいことなんだろう。どれだけ心が躍るんだろう。

 わからなくて、マリーベルはうつむく。
 今日はもうロニーに会いたくない。

 そう思うものの、会わずにいることで距離が開くのも怖かった。あの女性がいる今ならなおさらだ。自分がいないときにふたりが会っていたら、と考えるだけで胸が引き裂かれそうだ。

 こんな気持ちはロニーに恋するまで、あの女性が来るまで、知らなかった。
 マリーベルはぎゅっと唇を噛む。

 ロニーの家につき、ドアをノックしようとした時だった。
 少しだけ開いているドアの中から言い争うような声が聞こえて来て手を止めた。
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