薬師見習いの恋
「……だから、私にはお前が必要なんだ!」
 届いた言葉に、マリーベルは青ざめた。

「エルベラータ様」
「なんども言わせるな。私はお前がいないと……」

「あなたのお気持ちに沿いたい思いはあります。ですがこの村には私を必要としている人がいます」

 マリーベルはかごを取り落とした。

 私にはお前が必要なんだ。
 お気持ちに沿いたい思いはあります。

 エルベラータの言葉にロニーはそう答えていた。
 つまり、両想いなんだ。
 ふたりは貴族なのだし、きっと年齢も近い。マリーベルと違って結婚への障害はなさそうだ。

「医療面なら医者を手配する。それで大丈夫だろう?」
 エルベラータの声が聞こえた。

 ロニーが連れていかれてしまう。

 マリーベルは思わず駆け出した。このまま会話を聞いていたくなかった。
 足音に気がついたロニーが扉を開けたときには空っぽのかごだけが取り残され、地面に寂しそうに転がっていた。



 走り出したものの、マリーベルには行く当てなどない。
 気がつくと昨日と同じ森の奥、月露草が咲き乱れる小川に来ていた。

 さわやかで涼しい空気に、差し込む木漏れ日が清々しい。小川の音は耳に心地よく、小鳥が囀りながら飛び去って行く。
 昨日魔獣に遭遇した恐怖は悲しみのせいで麻痺していた。
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