薬師見習いの恋



 とぼとぼとマリーベルが帰路についたのは昼過ぎのことだ。
 かごをどこで落としたのだろうかと探しながら歩き、村に戻って来ていた。

「マリー! どこへ行ってたの!」
「どうしたの?」
 慌てた様子のタニアに首をかしげる。

「……あんた、泣いてたの?」
 赤く腫れた目を見とがめてタニアが言う。

「なんでもない。それよりなにかあった?」
「そうなの、ロニーが村を追い出されそうなの!」

「なんで!?」
「知らない、アシュトンが急にロニーに出て行くように言ったんだって」

「そんな」
 マリーは走った。息が切れても横腹が痛くなっても立ち止まらず、ただまっすぐにロニーの家に向かう。
 彼は家の外にいた。

「ロニー!」
 声をかけると、彼はいつものように微笑を向けた。

「どうしたの、そんなに急いで」
「ロニーが追いだされそうって聞いて」

「この家に滞在する期限が切れただけです」
「嘘よ」
 ハンナはいつまでも村にいてほしいと言っていた。それに、この家はロニーが来るまで無人だった。こんな急に期限が切れたなんて話がおかしい。
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