薬師見習いの恋
「だったら私の家へ。お父さんとお母さんには話をするから、だから!」
「マリーベル」

 咎めるような声に、マリーベルはロニーを見た。久しぶりに愛称ではなく名を呼ばれ、その声が深刻な響きを持っていたので、ごくりと唾をのみこむ。

「私が決めたのです。誰かに強制されたわけではありません」
 断固たる口調に、マリーベルの心はへなへなと崩れ落ちた。

「あなたのおかげでここでの暮らしは温かく居心地のいいものとなりました。深く感謝しています」
 それが拒絶に思えてならず、マリーベルはなにも答えられない。

「かご、落ちていましたよ。あなたのものでしょう?」
 受け取り、しょんぼりとうつむく。

「私が出て行ったあとはお医者さまが来るそうです。エルベラータ様が呼んでくださったのですが、今後は定期的に来て下さるそうですよ」
 医者はこの村にはひとりもおらず、医者のほうから定期的に来てくれるなど、そんなありがたいことはない。

「一週間後、私は出て行きます。それまではよろしくお願いしますね」
「……はい」
 かごをぎゅっと抱きしめて、マリーベルは答えた。
< 54 / 162 >

この作品をシェア

pagetop