薬師見習いの恋
3 ロニーの旅立ち
一週間はあっという間だった。
マリーベルが調薬を引き継ぐので、ロニーから念入りな指導があった。
どの病気にどの薬が良いのか、大人と子どもで分量をどの程度変えるか、などなど。ロニーは最終試験のようにマリーベルに尋ね、その解答に満足そうに頷く。
「マリーはもう立派な薬師です。私は安心して出て行けますよ」
ロニーの微笑みにマリーベルは切なくなる。
なんど「行かないで」と言いそうになったことか。
わかっている。そう言ったところでロニーを困らせるだけだと。
だからマリーベルは言葉を飲み込み、その代わりにロニーにたくさん質問し、解答を頭に刻み込んだ。
彼がいよいよ出て行く前日、マリーベルはフェスタ家の夕食に彼を招待した。
彼は快く了承し、仕事を終えたあと一緒に彼女の家に行く。
レターナもブレンドンもあたたかく彼を迎えた。
夕食の時間は和やかに楽しく過ぎた。だが、どこか誰もが無理しているような空々しさがあった。
彼が帰るときにはマリーベルが玄関の外まで送った。
「明日の出発も必ず送りにいくね」
「ありがとう、嬉しいですよ」
ロニーはいつもと変わらず優しく微笑する。
月の明かりに照らされて、ロニーの髪がいちだんと銀色に輝く。
銀蓮草もきっとこのように美しいのだろう、とマリーベルは見とれる。
青紫の瞳は優しく彼女を見つめ返す。
無言の時間すら苦痛ではなかった。
ただこれが最後なのだと思うと、あと少し、一秒、一瞬でもいいから長く彼といたいと思う。