薬師見習いの恋
「マリー、あなたにこれを」
 彼は手にしていた袋から包みを取り出す。

「なに?」
「薬学書ですよ」

「そんな大事な物!」
「これからはあなたに必要でしょう?」
 ロニーの優しい笑みが、マリーの胸にナイフのように突き刺さる。

「アシュトン様から聞きました。レミュールに行く話も出ているとか。私は行くことをお勧めしますよ」
「私はロニーから学びたかったのに」

「きちんと学校に通った方がいいですよ。思いがけない授業もあってこちらでは得られない経験もできます。例えば、弓矢の授業とか」
「弓? なんで?」

「集中力を身に着けるためだそうですよ。私のときは一から弓矢を作る授業もありました。今ではなんの役にも立たないのですけどね」
 ロニーは苦笑する。その笑顔すらマリーベルには切ない。

「お父さんが猟師だから弓を作ってるのを見たことがあるわ」
「そういえばそうでしたね。矢を射ったことはあるのですか?」

「それはないけど、矢を作るのを手伝ったり、くくり罠を作るのを手伝ったりしたことはあるの。森で迷わないようにするにはね、木の枝を折ってどちらから来たかわかるようにして進むのよ。でもそれをみんながやるときっと方向がわからなくなるわね」
「そうですね。だけど迷いそうなときはやってみることにみます」
 ロニーは優しく微笑する。
< 56 / 162 >

この作品をシェア

pagetop