薬師見習いの恋
 ふいに、ふわりと自分を包むものがあった。
 ロニーに抱きしめられた、と気づいたときには心臓が破裂しそうに動悸を打った。

 どうして、ロニーが。
 どれだけ好意を向けても優しく拒絶する笑顔を向けるだけだった彼が、どうして。

「マリー、元気で」
 その髪に口づけ、ロニーは離れ、走り去る。

 ロニー、どうして。
 マリーベルは追い掛けることもできず、薬学書の包みを抱きしめてうしろ姿を見送った。



 うじうじとろくに眠れずに夜明けを迎え、マリーベルはのそりとベッドから起き上がった。
 部屋を出ると、母はかまどに火を入れていた。

「早かったわね」
「なんだか眠れなくて。今日はロニーが村を出るのよね」

「そうね、まずは朝食の準備を手伝ってちょうだい」
「うん……お水汲んでくるね」

「それはあとでいいわ。玉ねぎを切って、卵と一緒に炒めてちょうだい」
「うん……」

 マリーベルは言われた通りに玉ねぎを切り、かまどにかけたフライパンで炒めてから卵を入れて炒める。
 その間もレターナはちらちらとマリーベルの様子を窺っていて、それに気づいたマリーベルはため息をついた。
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