薬師見習いの恋
 ロニーに懐いていたのは村中に知れ渡っているから、両親が知らないわけがない。心配をかけているのだと思うと気が重かった。

「いい匂いがするな」
 起き出してきた父が言い、レターナは笑う。

「いつもごはんができてから起きて来るわね」
「そう言うなって。そういえばそろそろ畑の作物が収穫期だ、マリーも手伝ってくれよ」

「うん……」
 父は村に隣接するルスティカ家の畑で働き、賃金を貰っていた。収穫期や種まき期などは女たちも手伝いに駆り出されることがある。

「アシュトン様の話、考えた?」
 レターナに言われ、マリーベルはどきっとした。

「昨日、ロニーが薬学書をくれたの。だから薬の勉強は村でもできると思う」
「ダメよ、聞いたところによると、王都ではたくさんの人が研究をしていて、日々新しい薬ができてるっていうじゃない。あなたも勉強に行くべきよ」

「でも……」
「なんのためにロニーに教えてもらっていたの?」
 厳しい母の声に、マリーベルはうつむく。

「やめないか、マリーだっていろいろ考えることはあるだろう」
「だけど、せっかくの機会なのに」

「ごちそうさま」
 マリーベルは食事を終えて台所へ皿を持って行き、洗って水切りかごに置いた。
 そのまま外へ出ようとすると、レターナは慌ててマリーベルを止めた。
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