薬師見習いの恋
 彼は今、神獣ユニコーンの描かれたブロンズ製の乳鉢で、同じくブロンズの乳棒を使って乾燥させた薬草をすりつぶしていた。

 王都のような都会では乳鉢ではなく粉砕機を使っているらしいが、この田舎にはそんなものはない。乳鉢すらロニーが持参したものだった。

「今日も薬草を採りに行くわ。欲しいものはある?」
「銀蓮草、なんてね」

「ロニーがずっと探してる、幻と言われている薬草よね。この近くで見たことはないわ」
「わかってます、言ってみただけですよ」
 ロニーは苦笑してみせ、作業を続ける。

「銀蓮草は無理でも、月露草(つきつゆくさ)ならまだ可能性があるのよね?」
「そうですね。銀蓮草に次ぐ万能薬と言われていて、静かな森の中、清らかな流れのそばに咲くと言われています」

「北の森の中ならきっとそんな場所もあるのに」
「ダメですよ、危険ですから。無理して摘みに行かなくてもいいんです」

「でも冬が来る前にたくさんストック作っておかないと!」
「あなたが熱心に採集に行くから、採り尽くしてしまわないか心配になるときがありますよ」

「そんなことしないわ。来年の分がなくなってしまうもの」
 マリーベルは口をとがらせた。そんなこともわからないような子供だと思われていることが不満だ。

 実際に二十五歳の彼から見たら子供なのかもしれないが、もう結婚だってできる年なのに。

 こんこんこん、と扉がノックされた。
「きっとマーゴットさんだわ。はーい」
 マリーベルが返事をしてドアを開けると、そこにはタニアの祖母のマーゴットがいた。
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