薬師見習いの恋
「まだ外へ出ちゃだめよ」
「どういうこと?」
「ま、まだ外は寒いわよ、もっと日が昇って温かくなってからになさい」
 レターナはうろたえながら答える。

「今までそんなこと言わなかったじゃない。なんで」
 マリーベルはハッとして扉を開けた。

「マリー!」
 母の声を背に受けながら、マリーベルは走る。

 ロニーの家に着くと、すぐにドアをノックした。
 こんな朝早くに来たことはない。通常ならみんな、まだ朝食を食べている時間だ。
 返事のないドアに向かって、マリーベルはノックを続ける。
 あまりに返事がないので、ドアをそっと開けた。

「ロニー、まだいるよね?」
 返事はない。暗い部屋は今までになく整然としており、いつも薬の材料が載っていたテーブルにはなにひとつない。棚にはこれまでロニーが作った薬が残されている。

「ロニー?」
 不安とともに声をかけ、一度も入ったことのない彼の私室の扉をノックする。

「ロニー、いるよね?」
 何度もノックするが、やはり返事はない。
 ためらいながらノブに手をかけ、しばらく迷ったのちにゆっくりと開けた。

 そこには誰もおらず、マリーベルは呆然と壁によりかかる。
 ロニーは昨夜のうちに行ってしまったのだ。
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