薬師見習いの恋
 この村付近での発見の報以外は、手掛かりらしい手掛かりはなかった。
 銀蓮草が見つかるときは魔獣の骨が近くで見つかったという例がいくつかあったというが、それがどう関連しているのかはわからない。

 春になり、森に魔獣が出るという話が上がってきた。
 魔獣がいるなら銀蓮草がある確率が上がるのでは。

 そう思いはしたものの、立入禁止の命令が出ているために大っぴらに森に入ることはできない。マリーベルが毎日のように彼の家に通うから、なおさら行くことはできなかった。

 結局、捜索は空振りばかりだった。
 銀蓮草の芽生えの季節、開花の時期すらわからない。春なのか、夏なのか、秋なのか。まさかの冬なのか。
 明日には昨日までなかった芽が生えているかもしれない。なかなかあきらめがつかず、暇があるとあちこちを探してまわった。

 この村で過ごすうちに、ロニーの心の中のささくれは次第に治っていくように思われた。
 のどかな景色に素朴な村人たちの明るい笑顔。
 それらはロニーがなくしたものだ。

 エンギア熱が流行る前には王都レミュールでも笑顔があふれていた。
 貧富の差は激しいし欲望にまみれた人たちもたくさんいたから平和とは言い難い都市ではあったが、それでも多くの人は生きる輝きに満ち、明日を信じていた。

 だが、病気が流行って以降はみなが暗く、亡くなった人を悼む教会の鐘が毎日響いた。
 薬はなくなる一方。熱で、咳で、さまざまに苦しむ人を前にロニーは励ますことしかできない日々が続いた。
 同僚も病に倒れ、それでも寝込むこともできずに対応に追われる。
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