薬師見習いの恋
 戦争でもないのに、病院は戦場となった。
 息がつまりそうな閉塞感と先の見えない絶望。

 患者を隔離することでその家族に責められることもあった。死に目にも会えなかったと泣かれるのはつらかった。
 患者は増えていく一方で、無力感に絶望することすら許されなかった。

 ただ必死に対応し、治まるのを待つ日々。
 なんとか終息宣言が出たあとには、次の流行が来ると予測された。

 ロニーは決心した。
 幻と言われる銀蓮草を見つけ、特効薬を作る、と。
 今から思うとそれは一種の逃避だったのかもしれない。
 幻の薬草を探す手間を考えると、身近な薬草から特効薬を作るほうが早いかもしれない。

 だが、疲れ切った頭はただ銀蓮草を求め、引き留める同僚の言葉を振り切って旅に出た。
 そうしてまた今、マリーベルを振り切って旅に出た。

 自分はなにをしているのだろう。
 王都に戻って薬師として務めたほうが、よほど多くの人を救えるのではないのだろうか。

 だが、病気は王都にだけあるわけではない。
 自分はどこへ行くべきなのだろう。このまま銀蓮草を探していてもいいのだろうか。
 ロニーは途方にくれ、それでもとぼとぼと歩き出した。
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