薬師見習いの恋
4 エンギア熱
にぎやかな人垣ができたのは、ロニーが旅立って三日後だった。
エルベラータが呼んだという医者が到着したのだ。村人がわいわいと歓迎の意志を伝えて取り囲んでいる。
マリーベルは窓に肘をつき、ぼんやりとその一行を見ていた。
医師は老齢で、黒いコートに黒いハットを被っていた。木製の薬箱を手に持っていて、ときおり咳をしている。
ルスティカ家の屋敷のほうからひとりの女性がやってくるのが見えた。
エルベラータだった。彼女はまだルスティカ家に滞在している。
医師はエルベラータに気がつくとすぐに腰を折った。
「王女殿下のわざわざのお出迎え、いたみいります」
聞こえて来た医師の声に、マリーベルは飛び上がるほど驚いた。
オウジョデンカ? オウジョって、王様の娘の王女!?
「わわ、やめろ、ここでは!」
エルベラータが止めるが、もう遅かった。
村人たちはざわざわとエルベラータを見る。
「王女? 本当に?」
「どおりで気品に溢れていると思った!」
「こんな田舎になんで?」
「ばかね、ロニーが……」
「そうだった、ルスティカの奥様が言ってらしたわ。恋人を探しに来たのね。ロマンチック!」
「身分違いの恋?」
「でもロニーって本当は貴族なんじゃ?」