薬師見習いの恋
「エルバ様、どうされたのですか?」
 言ってから、王女殿下に対してこれでは失礼ではないのか不安になった。
 だが、エルベラータは意に介することなく肩で息をしてマリーベルを見る。

「まずいことになった。覚悟して聞いてくれ」
「はい」
 エルベラータの真剣な表情に、マリーベルもまた真剣に耳を傾ける。

「エンギア熱を知っているか」
「異国から来た疫病で、レミュールで流行ったとか」

「その患者が出た」
「まさか」
 マリーベルの脳裏に咳をする医者の姿が浮かぶ。咳はエンギア熱の症状のひとつだったはずだ。

「患者は医者で、医者自身がそう診断した。屋敷はすでに隔離したが、医者によると『細菌』という目に見えないものが原因で、咳やくしゃみで空気中に飛んで感染するらしい」
「村に来たときには咳をしていたから」

「村人に感染しているかもしれない」
「潜伏期間は二日から三日、潜伏期間でも他の人に感染する……」
 マリーベルは青ざめた。ハンナから聞いた限りでは、王都でエンギア熱が流行ったときは大変なことになったという。

「すまない。あの医者が咳をしていた時点で警戒するべきだった」
「でもまさかお医者様がって思うもの、仕方ないです」
 マリーベルの言葉に、エルベラータは自嘲の笑みを浮かべ、それから顔を引き締めた。
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